パーマネント神喜劇 [本]
主人公は神様。
百三十七色のド派手な服に身を包み,縁結びの神様として千年以上もお勤めしてきた。
神様は,時を止めて人に接触したり,言霊を人に打ち込んだり,様々な手練手管を使って人々の願いを叶えるのを日々の仕事としている。
そんな神様と,その神様の側にいる,どう見てもお堅いサラリーマン的ビジュアルの,フリーランスライター兼覆面調査員の神様らしき人物。
4つの章からできていて,それぞれ,主人公の神様が関わる,不思議な話。
縁結びを始め,何でも屋のように願い事を叶える神様の身にも,神様の世界なりに不思議な出来事が起こっていきます。
万城目学さんの本は『鴨川ホルモー』とか『鹿男あをによし』とか『プリンセス・トヨトミ』とか『偉大なるしゅららぼん』とか,人間の力を超えた何かによる不思議な物語が多くて,1回目に読んだときは???ということもあるけれど,読んでいるうちにどっぷりと浸かってしまいます。
拙者のような,ただのぼんくらの人間が,初詣などで神様に祈りを捧げても,起こった幸運な出来事が神様のおかげだと実感することは,まあ殆どないかと思います。
けれども,人間界から見えないところで,こんな神様たちのお勤めがあるんだと思うとなんか楽しくなりますね。
あと少し、もう少し [本]
桝井が最上級生になる年,鬼のようだが,陸上部を強くしてくれた顧問の満田先生が異動になった。代わりに顧問になったのは美術の上原先生。陸上を何も知らない上原先生に愛想をつかす部員たち。最悪の始まりだった。
中学校駅伝は,男子六人で18キロで襷をつなぐ。
陸上部で長距離をやっていて,駅伝を走れそうなのは部長の桝井と,小学校から一緒の設楽,二年の俊介のみ。他の部活から選手をかき集めてチームを作らなくてはならない。
各区ごとに章立てされていて,その区の選手が主人公となるスタイルの小説。
陸上に打ち込む中学生たちの青春小説……とはいいつつも,それぞれ胸のうちには傷ついたり,負い目に感じていたり,秘めていたりするものがあり……。
登場人物それぞれに,中学生ならではの未熟な部分があって,何かしら抱えたものがあって,それでも陸上に打ち込んで,襷をつなぐ。
こういう群像劇,ものすごく好きです。
チームIII [本]
堂場瞬一さんの,陸上長距離『チーム』シリーズの一冊。
浦大地は,城南大監督として箱根駅伝三連覇を成し遂げ,名伯楽と言ってもいいほどとなった。
その浦に,大学時代ライバルで,今はUACという比較的新しい実業団の広瀬翔から相談があった。それは在籍している日向誠のこと。
日向は,城南大で三年までは箱根駅伝に出場しチームに貢献。四年次,卒業直前には東京マラソンに出場し,初マラソン日本人二位のタイム,日本人トップでゴールし,鮮烈なマラソンデビューをした。
城南大を卒業後に実業団入りしてからも,早々にMGC出場資格を得て,北海道マラソンで優勝。
順風満帆かと思われたその日向が,調子を落としている。
UAC監督の広瀬から浦に持ち込まれたのは,今は現役を引退し,広島の大崎上島の実家のレモン農園を手伝っている山城悟を,日向の専属コーチにすること。
現役の頃から孤高の存在であり,他の選手はおろか,監督やコーチにも,練習方針を口出しさせなかった山城に,コーチなど頼めるのか……。
「チーム」「チームII」で登場したメンバーが再登場。
山城悟,浦大地,門脇亮輔などの,「チーム」での学連選抜メンバーと,その学連選抜当時の美浜大監督,吉池幸三。
シリーズを通じて,歳を重ねどんどん策士になっていく浦大地。いや,主人公でないのに,存在感。
今作では山城悟が主人公(でいいのか?)。孤高の存在でブレることのなかった山城。誰にも染まることのない強さを持ち続けた山城が,日向誠というランナーを通じて感じたものは。
ある意味,他者と境界線を引き,その才能ゆえに孤独な世界にあった山城が,話が進んでいくごとに精神的に解けてきているように見えた。
そして日向が山城に反発しながらも,得たものは。
レースに至るまでの,心理描写もすごいなあと思いますが,とにかく。
とにかく,レースシーンは圧巻です。
選手同士の息遣いとか,駆け引きとかも感じるような。
自分も,ものすごい速さで走っているような。
これは実際に読んで,感じていただきたいです。