キング [本]
「チーム」長距離陸上シリーズのスピンオフ。
「ヒート」では山城の所属するチームのコーチ,「チームII」では監督となっていた須田真二郎が,現役陸上選手だったころを舞台に書かれた小説。
実業団でランナーとして走る青山晋。大学のころに徐々に力をつけ,箱根駅伝にも三年,四年のときに続けて出場している。だが,マラソンランナーとしては,怪我がないということだけが取り柄の,平均的な成績。
大学のときのチームメイトで,類稀なるスピードを持ち,日本最高記録を持つ須田真二郎。
しか期待されながらも度重なる怪我に泣かされ,五輪に出場することはできなかった。ガラスのエース。
また同じ大学のチームメイトであった武藤憲次。
四年前のオリンピックの選考レースで優勝し代表候補となったのだが,日頃からの陸連に対する批判的な言動が遠因となったのか,代表からは漏れ,結果的に会社を辞めて行方をくらましていた。
その三人が,そろって代表選考レースである五輪記念マラソンに出場し,そこからオリンピック代表を目指す。
五輪記念マラソンに向けてそれぞれのやり方で仕上げていくランナーたち。
不安に付け入るように,薗田という謎の男からのドーピングへの誘い。
ランナーとしてはベテランの青山。
走りで上を目指すことだけではいられない年齢になってきている。
走り続けたい思いと,その後の第二の人生のことも考えなければならないという葛藤。
ドーピングなど,禁じられているものに手を出すのは絶対にありえないと思う気持ちと,ドーピングすればもしかしたら勝てるのではないかという思いのせめぎあい。
これは青山の心の葛藤として描かれている。だがしかし,陸上,ひいてはスポーツ界のドーピング問題に一石を投じるものではないかと思う。
陸上,特にトレーニングを積んでいくときとレースシーンの選手の心理描写は圧巻。さらに陸上界を取り巻く社会にも問題を投げかけているのではないかと感じた。
非常に個人的ですが須田の「やあやあ」っていう力の抜けた挨拶が好きです。
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