競歩王 [本]
「天才高校生作家」としてもてはやされ,小説家デビューを果たした主人公,榛名忍。
二作目,三作目……と次第に売上が減り,小説家としてスランプに陥る。
そんななか,慶安大学図書館ラウンジの大型のモニターに映っていたのは,リオ五輪。競歩の中継。
それを見つめ,人目も憚らず号泣している男がいた。
慶安大学の陸上部の八千代篤彦であった。
片や文学部の運動とは無縁な青年。片やスポーツ科学部で陸上部に所属する体育会系。
縁がないように思われる二人。だが,それぞれ挫折した経験を持ち,自分の弱さを写し鏡のように相手に見出していたのだ。
榛名忍は,小説家として在りたい姿からは程遠いと感じていた。書く小説が売れずもやもやしている。同時期にデビューし,売れ行きも良くて直木賞候補までとなった作家を羨んでいる。
八千代は,陸上長距離で,箱根駅伝に出たくて慶安大に進学したけれど周囲の選手のレベルを知り,競歩に転向した。だが,なかなか競歩でも結果をあげられない。
それぞれの心に住む嫉妬心,鬱屈した思いが本当に感じられた。
なりたかった自分になれない。
二人の理想との差に思い,悩む姿が痛いほど感じられる。
オイラがここまで書いてくると,なんだか辛いことばかりの小説に見えてくる。
けれども,それだけではないし,爽やかな筆致で書かれているので読んでいただきたい。
決して王道の青春小説ではないと思うのだが,高校生ではない,100%青春だけともいえない年齢である大学生という年齢を絶妙に書かれているんではないかなと思っている。
コメント 0