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ビアトリクスポターの生涯 -ピーターラビットを生んだ魔法の歳月 [本]


ビアトリクス・ポターの生涯―ピーターラビットを生んだ魔法の歳月

ビアトリクス・ポターの生涯―ピーターラビットを生んだ魔法の歳月

  • 作者: マーガレット レイン
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 1986/10/15
  • メディア: 単行本


 ビアトリクス・ポター伝記の中でも、おそらく一番はじめに出され、著者のマーガレット・レインは生前のポター(そのときは既にウイリアム・ヒーリス夫人となっていたが)から、これ以上ない断固とした口調で取材の断りの手紙をもらったり、ポター没後、ウィリアム・ヒーリス氏やポター親類、湖水地方の人々などに直接の取材をして書かれた本です。訳者も英米児童文学に造詣の深い、元白百合女子大学教授の猪熊葉子。

 ポター自身の姿を人々から取材したり、ポター自身が出した手紙や日記などは孫引きでなくて直接見て考察しており、読み応えがあって、全てにおいて非常に優れているのですが、何しろ文章の分量が多い。大人向けの伝記です。
 これを小学生で読むというのは、非常に厳しいと思います。中学生でも、ある程度イギリスの当時の社会状況や習わしをある程度知っておかないと、文字を追っていくのに辛くて、結局心に残らなかったということにもなりそうです。

 ポターの祖父が、産業革命時に興ってきたアッパーミドル、中流階級のなかでも紡績業で裕福となり暮らしに全く困ることのない環境であり、ポター自身家庭教師を付けられ、余所の子どもと全く関わりのなかった子ども時代を過ごしました。
 このことをレインは、病的な内気でも決して不幸ではなく、むしろ動植物への興味を育み、本人にとっては幸いであったという立場を取っています。

 また、残っている十五歳~三十歳代までの暗号日記を資料としてかなり引用しており、ポターの内面に迫っています。
 ポター自身、生涯でたくさんの手紙を送っており、それを元にポターが何を思っていたのか、どういう気持ちで絵本に向かい合っていたのかを丁寧に考察されています。

 作品ごとに描かれているのがどの場所なのか、例えば「こねこのトムのおはなし」の中では、ソーリー村のヒルトップ農場を買って間もない頃で、そのヒルトップ農場がどの場面に出てくるかとか、家の内部はどこを描いたものかなど、丁寧に書かれています。
 それぞれの作品への愛情も伺えます。「フロプシーのこどもたち」「キツネどんのおはなし」でベンジャミンの子どもたちを探すピーターとベンジャミンの挿絵を数ある作品のなかでも、もっとも完成度の高いもののひとつであると評しています。

 レイン自身は、「ピーターラビットのおはなし」(私家版1901)から「こぶたのピグリン・ブランドのおはなし」(1913)までの13年を短かった創造的な期間といい、その後に出された小品については、過去の絵を寄せ集めただけのものや質の低いものである、と辛辣な意見を述べています。
 ウイリアム・ヒーリス氏と結婚した後のポターは、湖水地方での農場経営やナショナルトラストの活動に力を入れ、絵本作家としての姿は全くなくなってしまったようです。レインはこの時期のポターについては軽く触れる程度でほとんど書いていません。著者は絵本作家としてのポターを敬愛しているのだろうなと思わされます。
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