チームII [本]
「チーム」「ヒート」の登場人物たちがこの小説でも登場。
堂場瞬一さんの,陸上長距離シリーズ。
「日本マラソン界の至宝」と言われ「ベルリンマラソン」「東海道マラソン」で自身の持つ日本新記録を破ってきた山城悟。
選手生活をしている中で,怪我にはほとんど縁のなかった山城だが,左膝半月板損傷で長期の離脱を余儀なくされる。さらに,所属チームの解散が取り沙汰され,山城の居場所がなくなり,引退も考えるようになる。
浦大地を始めとする,かつての学連選抜チームが「チーム山城」を立ち上げサポートするというが……。
また,浦は怪我にも何度も悩まされ,引退を決意する。だが,引退を決めたのとほぼ同時期に母校の城南大学の陸上競技部の監督就任を要請され,それを受けることにした。
監督就任後,初めての箱根駅伝予選会で,11位。城南大の箱根本戦出場は成らなかった。だが11位となったことで,浦に学生連合チームの監督が回ってきた。
あのときの学連選抜とは,チームの位置づけも,選手の能力も,モチベーションも違う中でどうやって導いていくのか。監督として駆け出しの浦には,まだ想像もつかなかった……。
山城,浦だけでなく「チーム」で学連選抜だった門脇や朝倉,城南大陸上部の主務だった青木,それから「ヒート」の「東海道マラソン」でペースメーカーだった甲本。それぞれの登場人物が出てくるたび,ああっとなります(笑)。
長距離を走るということ。それぞれにとっての人生なんだなあと。
山城のように,常に日本のトップを走っていたもの。浦のように怪我に悩まされ,実業団ではいい成績を挙げられないまま引退するもの。門脇のように,高校の指導者として陸上に関わっていくもの。
走るという行為はそれぞれのあり方で,それぞれの人生で。
うまく言葉に出来ないですけど,尊いです。
レースでのそれぞれの心情の描き方が,本当にすごくて。
何度でも読みたいです。
ヒート [本]
神奈川県知事の「世界最高が欲しい。しかも日本人が取るべきだ」。
鶴の一声で計画された「東海道マラソン」。これらの企画立案やすべての責任が神奈川県教育局スポーツ課の単なる職員である音無太志にのしかかった。
しかも「東海道マラソン」の目玉として,日本マラソン界の至宝,山城悟を出場させ,世界最高記録で優勝させようというのだ。
個人主義,他者に阿る気は更々ないであろう山城を,この大会に出場させられるのか。
音無自身,大学四年のときに箱根駅伝には出たが,八区で区間最下位,大学で陸上は引退して一県職員として勤めていたのに,青天の霹靂とも言えるビッグプロジェクトを進めていくことになる。
「チーム」で学連選抜として出場した山城と,音無,かつてのハーフマラソン日本新記録を持ちながら,不運にもチームの解散に遭い,今回この「東海道マラソン」でペースメーカーを打診されている甲本剛など,それぞれの思惑が交錯する。
主人公は県職員の音無の視点だけれど,「チーム」でも存在感のあった山城の心情もなんかたまらない。
走ることに真剣に向き合っているからこその譲れない部分があるのだろうなというのを感じさせられる。多くの登場人物の心情が細やかに書き込まれていて,ああっ,もうっという感じ。(語彙力ひどすぎ)
あんまり詳しく書けないけれど,レースシーンは圧巻。
小説に出てくる「東海道マラソン」横浜駅のあたりから六郷橋のところまでの第一京浜は箱根駅伝のコースと同じところを走る。その描写も,個人的にとってもアガるねぇ。
あと,個人的なことですが,この堂場瞬一さんの陸上小説シリーズ,「チーム」「チームII」「ヒート」の順に読んだんですが,登場人物の時系列どおり読んだほうが良かったなあと思いました。
「キング」「チーム」「ヒート」「チームII」「チームIII」の順ですね。
フツーの主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉 [本]
フツーの主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉
- 作者: 原美穂
- 出版社/メーカー: アスコム
- 発売日: 2017/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2017年12月に出版された,青山学院大学陸上競技部の寮母の原美穂さんの本。原晋監督の奥さんです。
2017年の青山学院は出雲,全日本,箱根で3冠を達成し,箱根駅伝に至っては3連覇を成し遂げた常勝校と言ってもいいくらい。
原美穂さん自身をテレビで見る機会も多く,栄養面や精神面で学生さんたちを支えるしっかり者のお母さんというイメージでした。でも,最初から寮母として完璧だったわけじゃない。
安定した企業で,ずっと両親もいる広島で暮らせるはずだったのに,夫がいきなり会社をやめて青山学院大学陸上部の監督になるという。驚天動地。全力で反対したけれどでも夫の気持ちは変わらない。
そんな美穂さんが寮母となって試行錯誤しながら得てきた,生き方や考え方が書かれています。
美穂さんの立場だから出てくる言葉もたくさんありました。
個人的に一番心に残っているのは,最後の項目の言葉。
「夢」なんか無理に持たなくていい。「夢」を持つ人を懸命に支えることで,自分の「夢」が見つかることがあるのです。
寮母になってから,怒涛の日々を送られていたでしょう。けれども,学生たちを支えること,監督とは別の立場から見守ることに生きがいを感じて,学生のために頑張る人生もいいなあと思わせてくれました。
チーム [本]
箱根駅伝予選会。城南大は12位で本戦出場を逃す。
その城南大の主将,浦大地に声をかけてきたのは,11位美浜大監督の吉池幸三。「俺と一緒に箱根へ行こう」。
吉池は卒業生からオリンピック選手を何人も輩出し名伯楽と言われながらも,美浜大を箱根駅伝への出場させることは叶わなかった。
昨年,10区でブレーキとなってしまった浦に,留学生を含めて1位となるほど異次元の能力を持ちながら,協調性の欠片もない東京体育大学の4年の山城悟。浦の高校のチームメイトだったが,陸上長距離では弱小校の港学院に進学し,走りへの意欲を失ってしまった4年門脇亮輔。
寄せ集め集団である学連選抜の挑戦が始まる……。
集められたはいいけれど,学連選抜で自分たちのチームではないという学生たちのモヤモヤした気持ち,素直に箱根に出られたと喜べない気持ちが実に痛い。
それぞれ,心に痛みを持って学連選抜に向き合う,その心理描写がすごく辛くあり,だけどそれが尊くもありました。
あんまり書くとネタバレするのでやめておきますが,日本ならではの特殊な競技である駅伝で,襷を繋ぐこと。チームとなること。走っているときは一人だけど,でも決して個人競技ではない……。もう,何だが尊いです。(語彙力ひどい)
著者の堂場瞬一さんは青山学院大学の国際政治経済学部卒業。協力に青山学院大学の原晋監督の名も。
原晋監督も,2008年の箱根駅伝で学連選抜を5位に入賞させた人。フィクションなんですが,実話をもとにしたのかなあって感じました。
最後に一言。京急蒲田は「チーム」ではまだ踏切です。