ぶらんこ乗り [本]
三つ年下の弟はとても賢い。そして人とは違う感性を持っていた。
子供の頃もらったノートに記された字はきれいで,そこに記された弟の物語は,どこか,超越した不思議な感性を持っている。
優れているが,それを理解するのはむずかしい。弟はどこか孤独だったのではないか。
そんな弟が,学校のぶらんこから落ちる事故をきっかけに言葉を失う。いや声を失ったのではなく,とても恐ろしい,おぞましい声になってしまった。それで,何も話さなくなった。
高い木の上に作られたぶらんこに乗って,弟はたくさんの物語を書いた。それを私は読んで……。
物語に登場する「弟」も独自の感性をもっているが,もしかしたらいしいしんじさんの感性にもつながるものなのかなあと感じた。
ちょいちょい,どこか遠いところに飛ばされてしまいそうな,弟の悲しみと,それを見守る姉としての私の悲しみ。ものすごく透明な,ある意味超越した感覚なのかもしれないなあと思った。
一球入魂! 一音入魂! [本]
吹奏楽作家のオザワ部長による,野球部応援にスポットを当てたドキュメンタリー。
吹奏楽部の活動は,全国を目指す吹奏楽コンクールやマーチングコンテスト,アンサンブルコンテストもあるが,夏の高校野球応援も大切な行事である。
この本にものっている大阪桐蔭高校は,最新の応援曲を自分たちで作っているし,学校によっては魔曲だとか神曲だとか呼ばれるものもある。ある意味,自分たちはメインでない,野球部が主役ではあるが,その活動に熱心に取り組んでいる学校,高校生たちの努力や思いがとても強く感じられた。
・花咲徳栄高等学校
・常総学院高等学校
・大阪桐蔭高等学校
・作新学院高等学校
・習志野市立習志野高等学校
・東邦高等学校
・横浜高等学校
・東海大菅生高等学校
それぞれ野球の強豪校で,吹奏楽部やマーチングバンド部も強豪のところが多い。
個人的には,常総学院のセナールの話が心に残った。
常総学院はコンクールメンバーと野球応援メンバーははっきりと別れていて,3年で唯一コンクールメンバーにならなかったセナールが,悔しさや悲しみを乗り越えて前向きに野球応援のリーダーとして頑張る,いい話だった。青春だねえ。
たくさんの高校に足を運び,吹奏楽部員の生の声を聞くオザワ部長の取材力というか,高校生とのコミュ力には脱帽。
JR30年物語 分割民営化からの軌跡 [本]
JR30年物語 分割民営化からの軌跡 (旅鉄BOOKS 003)
- 作者:
- 出版社/メーカー: 天夢人
- 発売日: 2017/12/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
国鉄が分割民営化され,JRが発足したのが1987年4月1日。
2017年で民営化から30年が経つ。その間,何が消え,何が生まれていったのかを記した本。
赤字の続く国鉄が民営化され,JR各社に別れて新しい体制になったのが1987年。
JRがたどってきた歴史を細かく記した本。
0系から始まった新幹線の様々な車種。
JR各社になってから生まれた列車。
また消えていったブルートレインと,JR九州のななつ星から始まった豪華クルーズトレイン。
時代の流れもあるし,経営の合理化を測ったことで消えていったものもあるが,JR各社がこの30年で企画し生まれてきたものが本当にたくさんあるのだと感じた。
様々な整備新幹線も,豪華クルーズトレインもJR化してから生まれ,身近なところでは,SuicaなどのICカードの普及,上野東京ラインなどにあるような,首都圏を直通する電車があって,利便性が図られている。
始発駅の風情とは縁遠くなってしまったのかもしれないけれど,この30年の中で便利になったことや,快適に利用できる電車が増えたのだと感じた。
こんにちは! シャンシャン [写真集]
ブログ「毎日パンダ」の管理人さんによる,上野動物園のパンダ,特に2017年に誕生したシャンシャンの写真が満載の本。
写真集だけの位置づけではなく,パンダ知識も充実しています。小学生高学年ならコラムなども含めて余裕で読めます。
いやあ,とにかくシャンシャンが可愛いこと。
公開されたばかりの頃,母親のシンシンに舐められてピンク色になっている写真とか。
お母さんが愛情を込めてペロペロ舐めたからピンク色。めっちゃかわいい。
おてんばなシャンシャンの魅力が,これでもかこれでもかと詰め込まれています。
なんてかわいい生き物なんでしょう。
多くは毎日パンダの管理人さんの写真ですが,一般公開前のシャンシャンの写真や,中国のパンダ研究施設の写真など,他の方が撮影したものもあります。
「毎日パンダ」
https://mainichi-panda.jp/
20歳のソウル [本]
この本に書かれている浅野大義さんは,19歳の夏,胚細胞腫瘍が肺に転移していることが発覚し,闘病生活を送る。
1年半の闘病生活の末,20歳の1月12日に永眠。
吹奏楽に全てを懸けた高校時代の3年間と,闘病記,告別式までの7日間を書いたドキュメンタリー。
浅野大義さんはピアノを習い始めたのをきっかけに小学校,中学校と吹奏楽部に所属する。もちろん船橋市立船橋高校,市船に進学後も吹奏楽部に入り,トロンボーンを担当する。
市船は吹奏楽の座奏,マーチングだけではなく北海道で行われるYOSAKOIソーラン祭りや合唱も活動内容として取り入れられている。また,吸劇と呼ばれる吹奏楽と演劇の合わさった,市船独自の演奏,合唱,ダンスなどが織り込まれた表現も行っている。そして,夏の高校野球の応援。彼が作曲した「市船soul」。
大義さんは非常に充実した吹奏楽部での生活を送る。顧問の高橋先生,部長のユナなど大所帯の吹奏楽部の仲間。高校生ならではのさまざまな出来事があるが,それを通じて,友情は深まっていく。
だが,大義さんの卒業後,体調の悪さから,母の勤める総合病院で受診をし,さらに大学病院で検査したところ胚細胞腫瘍,つまり癌であったことがわかった。闘病が始まる……。
構成が,告別式前の母親,桂子さんの目線と,大義さん目線で人生を追ったところと交互に書かれている。一気に読み進めたが,再読すると,改めて大義さんの人生で気づくこともある。
大義さんは,いつも人のために生きていた,家族のため,市船の仲間のため,関わった多くの人々のため,そして愛する恋人のため。だからこそ,大義さんは誰からも愛された人生であり,告別式当日,164人ものメンバーが集まって彼を送り出すために演奏したのだ。彼を思う人々がいる限り,その心の中で大義さんは生きているといってもいいだろう。
アルプスと猫 いしいしんじのごはん日記3 [本]
いしいしんじさんのWEB連載「いしいしんじのごはん日記」の3作目。2005年10月1日から2006年9月30日まで。
2004年8月、筆者いしいしんじさんと園子さんが結婚なさった。その後、いしいさんの三崎の家はそのままに、園子さんが染めと織りを修行している工房のある松本と行き来しながら暮らす。
いしいしんじさん、奥さんの園子さん、大阪のご両親などなどご家族の方や松本の人々、三崎まるいちをはじめとする三崎の人々、いしいさんのもとを訪れるたくさんの人々との四方山話。それから次々出てくるまぼろしの猫やロバや女子高生ユッコなど本当にいるんだかよく分からない登場人物(笑)。
いしいさんと園子さんのもとに待望の「猫」が。
自分でも感想書いていてよく分からないや(笑)。さまざまな出来事がいしいさんのフィルターを通して、摩訶不思議な日記になっています。文章のクセがすごい。でも慣れてくると止められない。
ごはん日記だからして、毎日の食事もすごい。品数多い。園子さんも作るがいしいさんも作る。旨いものの話を読んでいるだけでいいなあ、うらやましいなあとなる。松本のデラウェアが三崎のめといかなどに化けたりする。デラ、ウェア!
たくさん食材や料理が出てきて、覚えきれないのですが、オイラめといかが食べたいです。めといか。
小さな鉄道と小さな旅 [本]
主に中京地区にある小さい鉄道と,その沿線旅の本。
紹介されているのは,以下の10路線。
・長良川鉄道
・樽見鉄道
・養老鉄道
・明知鉄道
・三岐鉄道北勢線
・三岐鉄道三岐線
・四日市あすなろう鉄道
・伊賀鉄道
・豊橋鉄道渥美線
・近江鉄道
フルカラーで鉄道写真や沿線の写真も紹介されています。
沿線の観光名所,歴史的な建造物,寺社仏閣などもたくさん紹介されています。。
多くの路線が,元国鉄や大手私鉄だったけれども,人口減や自動車利用のほうが多いなど赤字路線となり第三セクター化されている。こじんまりしていて,地域密着型の路線だと思いました。
この本で紹介されている三岐鉄道北勢線と四日市あすなろう鉄道は,特殊狭軌,ナローゲージと言われる,軌間が762mmもの。どの路線も,鄙びた様子が魅力ですが,オイラ個人的にこの2路線に特に乗ってみたいです。
思い出してみると,鉄道チャンネルでやっていた(オイラは再放送?BSのトゥエルビで見ていた)「鉄道ひとり旅」でやっていた路線ばっかりではないか。「鉄道ひとり旅」もう一度見返してみようかな。
インスタントラーメン誕生物語 幸せの食品インスタントラーメンの生みの親・安藤百福 [児童書]
インスタントラーメン誕生物語―幸せの食品インスタントラーメンの生みの親・安藤百福 (PHP愛と希望のノンフィクション)
- 作者: 中尾 明
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 1998/07
- メディア: 単行本
「PHP愛と希望のノンフィクション」シリーズの1冊。日清食品のチキンラーメンとカップヌードルを生んだ安藤百福さんの伝記。
台湾で生まれ、商家の子どもとして祖父に厳しく育てられたこと。
戦中,戦後の苦しい時期をアイデアと人並み外れた努力で乗り越えてきたこと。
理事長として名前を貸しただけの信用組合が抱えた負債を背負う羽目になリ,すべての財産を失ったこと。
戦後の混乱の時期にラーメンが人々の心に希望を与えてきたのを思い出し,自身で今までにないラーメンを作ろうとしたこと。
安藤百福さんの生きてきたどの時期にも,人一倍強い探究心を持って事業を成し遂げてきたことを改めて知った。
また,得た利益を自分だけのものにするのでなく,食品業界のため,会社で働く人々のため,スポーツなどを通じた社会全般のために還元してきている。
阪神大震災のときには三十万食もの即席麺を,「チキンラーメン号」というキッチンカーで被災者の人々に配った。人々のためになることをする安藤百福さんの信念を知ることができた。
2018年10月からNHKの朝ドラで,安藤百福さん,奥さんの仁子さんをモデルにした「まんぷく」が放送されている。伝記を読んでみて,こういうことだったのかと改めて気づくこともあった。